昨日の続きです
(ツナSide)
オレは、予約していた新作のゲームを鞄に入れて家まで急いで帰っていた。半年前から楽しみにしてたゲームだったから。
でも、気がつくとオレは空に浮いていた。
リボーンという家庭教師が来てから色んな事が周りで起きていて、ある程度のことには慣れていたからそこまで驚かなかった。でも今は死ぬ気でもないし、特にトラブルが起きている感じもしない。それにさっきまで道を歩いていた気がするんだけど…。ぷつりと消えてしまった記憶を探ろうとしても何も思い出せない。オレが考え込んでいると後ろからアイツの声がした。振り返るとやっぱり、いた。
「目が覚めたか、ツナ」
「リボーン!またお前の仕業かよ!」
「お前には悪いと思ってる」
「ちょ、なに急に真面目になってんの?これっていつものパターンでジャンニーニとか10年後バズーカの故障とかなんだろ?」
「ツナ、落ち着いてきいてくれ」
「な、に…」
「お前は、今日死んだんだ。」
「……え?なに、しんだって…オレ生きてんじゃん…だってほら体だって…」
「今、お前は魂だけの存在だ。俺の力を貸してるから肉体があるように見えるだけだ」
「ちょっと待って、冗談だよね。なんでオレが死ななきゃいけないんだよ!」
「俺はお前の家庭教師でもあるが、俺の本職は”死神”だ。といっても寿命をむかえた魂の回収と言った方が正しいんだがな」
「それじゃ…オレが死ぬ日は決まってたの…?」
「あぁ。だが、本来土曜にお前は事故に遭う筈だったんだ。そこでお前に一日だけ時間を与えるぞ。ただし、会える人間は一人だ。声もそいつにしか聞こえない。それでもいいか?」
自分が死んでるなんて信じられなかった。でもリボーンに連れられてオレが搬送されてという病院まで行ってみて全てが本当のことだった。ベッドに寝ているオレの周りにみんながいて、泣いていた。母さんや、獄寺くんに山本。京子ちゃんやハル、イーピンやランボも。オレの周りにはこんなにもオレの死を嘆いてくれる人がいる。それなら、なお更ひとりなんて選べない。
だけど、あと一日でオレの人生が終わってしまうのなら、彼に逢いたいと思った。今までずっと遠くで見ていた彼に逢いたい。これからもずっとそうしていくと思っていたから何も出来なかった。近くにいるだけで満足してたんだ。それは明日は何か起こるかもしれないと淡い期待を抱いてからかもしれない。
それも、もう願うことも出来ない。だったら、最期にちゃんと気持ちを伝えたい。
オレは、リボーンの力を借りてヒバリさんの所へいく事が決まった。会う前にお弁当を作りたいと言うと、不思議な空間に連れて行かれた。でもそこにはキッチンと食材が入った冷蔵庫があった。これもリボーンの力なのかなと思いつつもさっそく調理にとりかかる。2時間半かけて作ったお弁当を持って応接室へと向かう。
咬み殺される覚悟で開けた扉の先、ヒバリさんはオレを追い返さなかった。
「仕事を手伝いたい」と勇気を出して言ってみたら、書類に印鑑を押す作業をさせてくれた。
足を捻ったことを言うと保健室から湿布を持ってきて貼ってくれた。
少し焦げた卵焼きも食べてくれた。「上手くできたらまた持ってきなよ」と言ってくれて嬉しかった。
嬉しいけど、それ以上にツラくて泣きそうになった。ヒバリさんには未来がある。でもオレは今日一日しかないから。
その後はヒバリさんに屋上まで引っ張られていき、抱きしめられた。
すっぽりとヒバリさんの腕の中に収まると体温がじんと伝わってくる。こんなことをしてくれるなんて夢にも思っていなかった。ヒバリさんは、オレの事どう思っているんだろう。この数時間、一緒に過ごしてくれるんだから嫌われてるってことはないけど、でも。
もっと早くオレが今日と同じ行動をとっていたらどうなっていたんだろう。オレが死んでしまう日は変えられなくてもヒバリさんと過ごせた時間は多かったのかもしれない。こんなこと考えるだけ無駄だったことは分かってる。それでもこんな風に抱きしめてくれる関係になれたならオレは自分の気持ちを伝えられたのかもしれない。後悔しても、もう遅いそう言われたら何もいえないけど、それなら…
オレは一日ヒバリさんと過ごせることにある条件が付けられていた。目を閉じるとリボーンの声が頭の中に響いてくる。
”雲雀の記憶は消してくるんだぞ”
これはオレの自己満足でやっていることだ。今のオレは幽霊みたいなものだからヒバリさんが気持ち悪く思う可能性だってある。ヒバリさんにはこれから明るい未来が待っている。たった一日だから、自然と忘れてしまうかもしれない。少しの時間でも不快な思いはして欲しくない。だからこそ、オレとの記憶はあってはならない。オレもそうして欲しいと頼む気だったからちょうどよかった。
”記憶を消すにはコレを使え”
渡されたのは銀色の匣。オレが持っている大空のリングで開匣するとヒバリさんから記憶を消すことが出来るらしい。
ヒバリさんはすぐに寝てしまった。少し視線を上に向けるとヒバリさんの寝顔をみることができてドキドキしっぱなしだった。このままオレも一緒に寝てみたい。でも時間が迫ってきている。オレは意識を集中させて体を魂だけにした。ふわりとヒバリさんの浮かぶオレの魂は再び人間の体になる。ヒバリさんはまだ目を覚まさない。今のうちにこの匣に炎を注ぎ込めば全てが、終わる。
「ヒバリさん、今日はありがとう…ございました…オレはヒバリさんのことずっと…あ、あれ…?」
涙が、止まらない。でも涙は落ちても地面には何も残らない。今のオレは魂に近い状態だから。彼は、これから先も群れを嫌うんだろうか。今日オレにしてくれたみたいに誰かと応接室で過ごすのかな。誰かと付き合ったりするのかな。彼女が出来て、抱きしめて、キスをして、結婚して。なんてありえない話じゃない。オレはそんな彼の幸せを見守ることもできない。
「お、オレ…死んじゃってるのに…こんなこと分かってたのに、おかしいよ…」
彼女が出来ても絶対に邪魔しない。一番になれなくても、ただの草食動物でも雑用でもパシリでもいいから。嫌われても気持ち悪いって軽蔑されても。もう、なんだっていい。
ヒバリさんのそばにずっといたいよ。
それすらも叶わないなんて神様は残酷だ。それでも死神はチャンスを与えてくれた。
触れた唇は温かい。生きてるときに伝えたかったオレの気持ち。ごめんなさい。やっぱりオレと過ごした今日を忘れて欲しくない。ありがとうもサヨナラも大好きも伝えられなかった。最期にもう一度触れた唇は涙の味がした。
「ヒバリさん…オレは貴方ことが好きです…」
貴方に逢えてオレは幸せでした。
遠くなる沢田の声を聞きながら僕はベッドの上で目を覚ました。全てが繋がった。彼の行動の意味は全て僕の事が好きだったから。
「僕も君が好きだよ」
でも、もっと早く僕が動いていたのなら君は辛い思いを残さなかったのかもしれない。
そんなことばかり考えてしまう。
だって、本当に好きだったんだ。
だから、これからもずっと君だけを想い続けるよ。
流した涙の数は君への想い。
君と過ごした僅かな時間は僕の永遠の恋の証。
「―っていう夢を見たんだけど。」
「……はい?」
「だから今日は僕が送っていくから」
「あの、ちょっと待って下さい、ヒバリさん!」
「君が僕を置いて死ぬなんて許さないからね。そうだ、明日は休みだから僕の家においでよ。その方が安全だ」
「オレゲームなんか予約してませんし、死んだりもしません!確かにリボーンは怖いけど死神だなんてありえません!」
「僕の事が好きだってことは否定しないんだね」
「ーっ!!いや、違がっ…!オレは別にっ…!!」
「君、分かりやすい反応するんだね。やっぱり君は可愛いね」
時間は少し遡る。
教室を出て階段を降りていたらヒバリさんと目が合った時からもう始まっていた。それから数秒後、ヒバリさんに手首を掴まれて学校を出ようとしていた。その間ヒバリさんの夢の話を聞かされた。内容はとても悲しい話だったけど、その登場人物がヒバリさんとオレだったことが問題だ。どうやらヒバリさんは寝起きなのか夢と現実がごっちゃになってるみたいだ。そうとしか考えられない。
でも、オレは差し出されたヒバリさんの手を払いのけることは出来なかった。
触れられた熱、告げられた想い。
それに甘い誘いを断ることができるほどオレは無欲じゃない。ずっと好きだった人が一緒にいてくれるという夢のような現実。
オレは一歩踏み出す勇気を貰った。
握り返した掌は想像していたよりも熱くて大きかった。
<終わり>
+おまけ+
「か、母さんには…友達の家に泊まるって言ってもいいですか…?」
「友達じゃなくて恋人って言ってよ」
「こいびと…!!?」
「違うの?」
「ひっヒバリさん!まだ寝ぼけてるなんて言ったら怒りますよ!」
「僕はいつでも本気だよ」
(今度こそ本当に終わり~)
あれだけ引っ張っておいてまさかの夢オチでした\(^0^)/
リボーンは最強の家庭教師です。もちろんツナの寿命はまだまだ先です。だってヒバリさんとこれからの人生を楽しまなくてはいけませんからね^^
全部、ヒバリさんの夢というオチでしたが、最後はヒバリさんに頑張ってもらいました。これくらい積極性を出さないとツナは見てるだけで満足の子になっちゃうから!
でも、おまけが某車のCMっぽくなっちゃった(笑
[4回]
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